イマジネーションの扉@Discovery for 2020 ③
「Discovery for 2020」一連の音楽ワークショップ・プログラムの中で、とても印象的なシーンがありました。
都内の障害者施設で、ロンドン交響楽団の音楽家と日本の音楽家の総勢6名で音楽ワークショップを担当した時。
そこに通う10代前後の利用者さんと、ケアに当たっている先生方、職員の皆さんと一緒に音楽を作りました。
テーマになったのはラベル作曲の〈眠りの森の美女〉のワンシーン。
目覚め、子守唄といった、「眠り」からインスピレーションを得た音を組み立て、場面を彩っていきました。
音楽家の吹くトロンボーンの朝顔部分が鏡になって、そこに映り込んだ自分の顔をみて、嬉しそうに笑った女の子。
味わうようにタンバリンを叩いて、その響きを聞いていた男の子。
それまでに会ったことのない人に会い、目を合わせ、息を合わせて音や音楽を作り出す。
さわったことのない楽器に触れる。
そして、様々な楽器が作り出す音の海の中に、自分の身体をひたしてみる。
それら一つひとつは、彼らの日常の中でも珍しい、未知の経験でもあったでしょう。
けれども、未知に触れると言う興奮以上に、彼らの表情を輝かせていた理由は、彼らの心の中に広がる「イマジネーション」が、音と言う形を得て目の前に具現化したことにあったのでは、と思えるのです。
王女様の長い長い眠り、そして目覚め。
そうした「イマジネーション」の扉を目の前にした時、何気なく鳴らされていた小さな鈴の音も、途端に息づいて響きだしたように思いました。

音が、単なる物理的な音という意味合いを超えて聞こえてくる。
音の向こうにある豊かな色彩と、光景、心の動きまでも、自分たちの持つシンプルな楽器がささやかながらに確かな輪郭をもって描いているという実感。
音楽が、ただなぞるように奏でられているのではなく、目の前で描かれている世界にある種の必然性をもって重なり生まれてくるのを、全員で目撃しているような感覚。
時間が進むごとに、より大きく開け放たれていった「イマジネーション」の扉の向こう側で、「アーティスト」として音楽を作り出している一人ひとりの姿が、鮮やかで、印象深く思えたのでした。