静かなエウレカ@即興と浮力
音楽ワークショップに初めて出会った時、それは私にとって「即興」に初めて挑戦した瞬間でもありました。
とはいえ「即興」という言葉はそれまでも、決して親しみのうすい言葉というわけではありませんでした。
学生当時のレパートリーとして数えられる多くの協奏曲の中で、演奏者の腕と節回しを自由に、存分に披露できるターンとして出てくる「Cadenza」。
ところが楽譜に書かれた音符や作曲家の指示に従うことに必死だった当時の私にとっては、強弱記号も小節線もなく、演奏者に委ねられるとはいえ厳密に書かれたように見える音符の配列はナンセンスな呪文でしかなく、毎回そのパートに入るたびに途方に暮れていました。
「自由に」という指示に従えば従うだけ、ますます手足が不自由になっていくようなあべこべの感覚の中でしか、「即興」という言葉をとらえられなかったのです。
そんな時に、ピアノのグルーブと和音のたゆたいの上で「好きにヴァイオリンを弾いてみてよ」と指示されたのでした。
いつ始まるとも終わるとも指示されない、ただその時間と音楽の中で必死に自分のヴァイオリンの音を寄り添わせる。
ゆっくりとたゆたっている水の上に、小さな花びらを一つ二つ、慎重に浮かべてみるような感覚。
自分のヴァイオリンの音が、少しずつほぐれて、自由に泳ぎだしていくような感覚をおぼえました。
ところで、私はずいぶん小さい頃にスイミング教室に通いはじめた時、水の中に入るのが怖くて怖くてたまりませんでした。
プールサイドでプルプルと動けずにいた私を見かねた先生が、私を腕の中に抱えて水の中に引き入れてしばらくたゆたっていると、いつのまにか先生の腕が自分から離れていて、私一人で水の中に浮かんでいた。
その時の記憶が呼び覚まされるような、驚きと快感。
水の恐怖から解放されて、それまでにない自由を得たときに似た、静かな興奮。
その昔、お風呂に浸かって浮力を発見し、「エウレカ!エウレカ!」と叫んだアルキメデスのように、「やった!わかった!」と顔がピリつくほどの喜びでした。

私の知る「即興」は、その時に意味を変えたと思います。
おどろきは 一つ浮かべて 水の上