変わると変わらない。
2019年、私が音楽ワークショップの自主企画を実施したときにお世話になったアートスペース萌芽。
音楽的なコミュニティを作り出すこと、多層的で多様な人間が集まりうる即興創作の現場を生み出すことを目的に始まったこのワークショップはその後、実施と動員が噛み合わずやむなく断念・中止しました。
※実施当時の記事はこちら。4年前です。
この会場を基点に、昨年2022年の12月から、また新しいプロジェクトを立ち上げています。

「トリオ・シグナル」による「ファミリーコンサート」シリーズ。
同窓の音楽家が集まり、これまでそれぞれが培い、試み続けてきたこと、知見と挑戦を原動力にスタートさせました。
このトリオの結成は2021年。
2020年からのコロナの流行により一変した世界で、これまでの活動の仕方から大きく舵を切り換えなければ、自分達の音楽活動はおろか、文化芸術が息づかせてきたあらゆるものの脈が途絶えてしまうという危機感が、音楽家としても、そして人の親としても強まったタイミングでした。
激変する社会の中では、人もモノも、「変わる」しなやかさと逞しさ、「変わらない」意義と尊さ、それぞれを調和させなければ、あっという間に淘汰されてしまう。
目に見える数字や形には必ずしも表れないもの、そこに価値を置く文化芸術の分野では、それはあからさまに「生き残り」に関わってくる。
それはもはや生存競争。
生きているだけで大変、生活を回すだけでも息切れがする、そんな息苦しさをそこかしこで感じる。
そこで果たして文化なんて、音楽なんて、何の役に立つというのか?
真っ白になったスケジュール帳を前に考えても答えは見つかりませんでしたが、はっきりと見えていたのは、人と人との間に容赦なく開いてしまった距離でした。
「ソーシャル・ディスタンス」がありとあらゆる場所で意識・徹底されるようになり、人と人との距離をそれまでにないものに作り替えた。
開いてしまった距離を挟んで生まれる孤絶と痛みが、色んなところに見える。
物理的に触れ合うことの叶わない環境、そのもどかしさを、「見えない」「触れられない」音楽でどうしても反転させたかった。
触れられなくても、人の温度を感じられるような「シグナル」を放ちたい。
多くには届けることはできなかったとしても、身近な大切な人に向き合った、音楽的な営みを作り出したい。
そうしたコンセプトから、このアンサンブル名が決まりました。
結成当時から時間は流れ、見えない戦いを強いられている世界は相変わらず混沌と錯綜していて、結局「変わらない」ものの価値も、また揺れ動いているのだということを痛感します。
それでも伝えたいことを伝えたい人へ伝えたいと願う力こそが、人の持つ「変わらない」力なのだと、当時よりも確かな強さを持って実感できるのです。