ARTICLES

ブログ、コラム、イベント情報などの新着記事

 昔話になりますが、私の高校時代の通学路はバスを使って東大寺の参道を見て折れ曲がり、左手に鹿の憩う飛火野、奈良教育大学前を通り過ぎて、若草山の裾野、屋根の低い建物と田んぼに周りをかこまれた所でした。
その通学路をひょいと外れたコースにあるのが、文豪・志賀直哉の旧宅、「高畑(たかばたけ)サロン」です。
昭和初期、志賀直哉の住居として建てられたこの邸宅は、彼の住まいであったのみならず、当時の文人、芸術家たちの行き交うサロンとしての役割も担っていました。

私は一度だけこの場所に足を運んだことがあるのですが、志賀直哉が直々に設計し、様々な意匠を取り入れた家のつくりの中に、彼の心に触れたもの、瞳に映っただろうもの、彼らの生活や息遣いが感じられました。
そして、当時の空気を色濃く残したような静けさを、夢中になって吸い込んだ覚えがあります。

私の音楽ワークショップ・プログラム「うたばたけサロン」は、実はこの「高畑サロン」の名前から響きを拝借したもの。
当時作家として旺盛な活躍をしていた志賀直哉が、数多くの人たちとの間で育てたコミュニティへの憧れが、ベースにあります。

彼らの交流の様子について、今や多くを知ることはできませんが、そこに集った人一人ひとりの興奮や喜び、興味や発見が熱を持って分け持たれていたのかもしれない。
そう考えた時に、ふと自分もまたそうしたコミュニティを作り出したいと思えたのでした。

加えて、「たかばたけ」という言葉が持つ牧歌的な美しさとのどかさ。
ある種の理想郷のような響きを持つこの言葉に、すーっと自分の語感が引きつけられてのネーミングだったと、今振り返ると思えるのです。


関連記事一覧