「声」をあげて@パーソナル・ソング②
物語の誰に、自分が最も共感するのか。
それはその世界を味わうために必要な問いと言えると私は考えています。
ミュージカル「シスターアクト」のあらすじはこちら↓
破天荒な黒人クラブ歌手デロリスは、殺人事件を目撃したことでギャングのボスに命を狙われるハメに。重要証人であるデロリスは、警察の指示でカトリック修道院に匿って貰うが、規律厳しい修道女たちからは天真爛漫なデロリスは煙たがられてしまう。そんなある日、修道院の聖歌隊の歌があまりに下手なのを耳にしたデロリスは、修道院長の勧めもあって、クラブ歌手として鍛えた歌声と持ち前の明るいキャラクターを活かして聖歌隊の特訓に励むことになる。やがて、デロリスに触発された修道女たちは、今まで気づかなかった「自分を信じる」というシンプルで大切なことを発見し、デロリスもまた修道女たちから「他人を信頼する」ことを教わる中で、互いに信頼関係が芽生え、聖歌隊のコーラスも見る見る上達する。が、噂を聞きつけた修道院にギャングの手が伸びるのも時間の問題であった・・・。果たしてデロリスは無事に切り抜けることが出来るのか?修道院と聖歌隊を巻き込んだ一大作戦が始まる!
東宝ミュージカル「シスターアクト」公式サイトより抜粋
私がこのミュージカル「シスターアクト」の劇中、一番共感したのは、メアリー・ロバートという修道女でした。
主人公デロリスの出会う個性豊かな修道女たちの面々の中でも、病的なほど引っ込み思案で、いつも誰かの背中の後ろに隠れがちの、年若い修道女です。
自分を出すことが苦手、言葉つきも歌声も、何もかもが弱々しく、頼りない。
けれども主人公との出会いから、内に秘めた意志や感情を解き放つ勇気を、少しずつ少しずつ育てていくキャラクターです。
物語の前半、〈Raise your voice 声をあげて〉というナンバーの中で、震えて仲間内の中に隠れよう隠れようとしていた声が、突然に解き放たれる瞬間に、彼女がそれまで押し殺してきた力と希求の発露をみる。
沈黙の中に塗り込めていた想いや願いを、我知らず溢れさせてしまうその様子に身につまされるような気持ちになりました。
この作品に出会う2年前、留学生活がはじまって私が一番最初に受けたカルチャーショックは、大人も子どもも日常的に議論するということでした。
前期1週目が始まってまもなく、まだ顔見知りになりたての同級生たちが、早くも意見を戦わせているのに圧倒されました。
恥ずかしながら当時、議論と喧嘩の区別がついていなかった私にとって、その場の遠慮のない丁々発止のやりとりが喧嘩のように思え(しかも声が大きい…)、呆気にとられてブルブルしていた、というのが正直な話。
私から見れば、もう戦場。
ある日、あまりに私が静かなので、ひと通り議論が終わった後に同級生から
Eiko, Where were you? どこにいたの?
と聞かれたことがありました。
そこでイヤと言うほど思い知ったことですが、言葉を発さないのは、私がそこにいないことと同じ。
どんなに思考が頭のなかをめぐり、葛藤や知恵、いろんなものが去来したとしても、それを外に出さない限りは存在しないに等しい。
たとえ議論に直接分け入っていくことが難しかったとしても、何か言葉を投げたならば、コミュニケーションの主体性を必ず得られるのです。
同級生の彼らは、そう言ったならばその言葉を待って、受け止めてくれる人たち(それを小さな時から訓練されてきた人たち)だったからです。
そこから「沈黙をやぶる」ということを、本当に小さな小さなレベルから試みる生活が始まりました。
「声をあげて」、自分を表すことに勇気をもつこと。
それは難しいことでしたが、必要なことでした。
続きます。