「うた」が開く記憶の扉 @ パーソナル・ソング①
一口に言ってお宝といっても色々とあって、実際に手に取れるものもあれば、胸の中の宝箱を覗き込んでいそいそと取り出してくるものもあります。
今回は写真なりの形にしてお見せすることができないのですが、私が時折立ち戻ってきてしまう「うた」について。
ロンドンでの留学期間が終わり、帰国前の数週間、それまでの日常のあらゆるかけらに別れの色が差し、この大好きな街から自分の身体が引き剥がされていくような痛みを、そこかしこで感じながらウェストエンドの劇場街を歩いていたとき、目を引いたポスター。

ミュージカル〈Sister Act シスターアクト〉。
このミュージカルは、1980年代にヒットした、ウーピー・ゴールドパークの主演による映画〈天使にラブソングを〉をもとに制作されたもので、日本でも2015年に初めて公演されています。
世界初演はそれに先立ちロンドンのウェストエンドで、ちょうど私がロンドンを離れる2010年の夏の終わりにありました。
ポスターを見た瞬間には日本で洋画の名作として名高い映画〈天使にラブソングを〉のミュージカルリメイクだとは結びつかず、ポスターの中で踊り狂う威勢のいいシスターに引っ張られるような形で劇場に潜り込みました。
生ものの舞台にしても本の中にしても、物語のなかの「誰に共感するか」によって、自分の中に広がる世界と感情の色は随分変わるのだろうと思います。
作品に自分が同化して、自分にさえ思いもよらないほど心を揺すぶられるような経験がふとやってきて狼狽することがあるのですが、この作品でも言葉が猛烈な勢いで私の中に流れ込んできて、客席に縫いとめられたように動けなくなった。
続きます。